日本の古くからの原風景、里山を彷彿とさせるような、雑木の庭に興味はありませんか?様々な雑木をあしらうことで、庭の中に素敵な風景を創り出すことができます。雑木の庭のメリットデメリット、注意点などをご紹介します。

目次

雑木の庭とは?

玄関とたくさんの庭木

 雑木とは、「特に利用されない木」をひとまとめにした言葉です。「特に利用されない草」をひとまとめにした雑草と似たようなイメージです。しかし、その雑木をうまく利用して庭づくりをする手法があります。それが雑木の庭と呼ばれるものです。雑木の庭といっても本当に庭づくりにおいて利用価値のない木をあしらうのではなく、雑木林に生えるような木々を上手に使って風景を創り出します。

雑木の庭のメリットとデメリット

メリットとデメリット

 雑木の庭をつくる上で、メリットもあれば当然デメリットもあります。一本一本の木を丁寧に仕立てている庭園のような庭と比べると、手入れの仕方や外からの見え方なども全く違ってきます。庭をつくってからデメリットに気がつくのでは、どうしようもありません。どんなメリットやデメリットがあるのか、庭をつくる前にしっかり把握しておきましょう。

メリット

紅葉した木と建物

 メリットとしては、雑木の自然な樹形を活かした景色や、景色の移ろいを楽しめることなどがあります。雑木の自然な姿を楽しめるのは、雑木の庭ならではのもの。日本にもともと古くから自生する木々によって創り出されるのは、まさに日本の原風景。具体的にどんなメリットなのか以下でご紹介します。

天然の日よけとしての機能

 雑木を植えることで、天然の日除けになります。雑木は枝を広げるような樹形に育つものが多く、また人の背を越すくらいに大きくなるものが多いので、それらがうまく陽を遮ってくれるためです。
 温度の高い西日の差す西〜南西側に落葉樹の雑木を植えておけば、夏の暑い日には日陰をつくり、冬の寒い日には落葉しているので暖かい日なたをつくってくれます。これは古くから屋敷林での木の植え方として使われてきた手法です。日を遮りたい場所に、適した樹形の木を植えてみると良いでしょう。
 また、これらの木は日よけだけでなく、目隠しとしても役立ちます。家の窓がある側にこれらの雑木を植えるなどして、目隠しと日よけを両立させることも可能です。

四季の移ろいを楽しむ

 雑木として植えられる木の多くは、日本の雑木林に元々自生していた木です。地域にもよりますが、基本的には季節が変わるごとに四季折々の姿を見せてくれます。花を咲かせたり実をつけたりするのはもちろん、春の芽吹きや秋の紅葉や黄葉、冬に落葉して枝だけになった姿もおつなものです。海外産の木でも季節を通じて姿や見た目を変えるものは少なくありませんが、本来の自生地のふるまいとは少し違っていたり、いまいち季節感がなかったりします。
 その点、日本の原風景をつくりだしてきた雑木たちは、古くから人々に親しまれてきた姿を見せてくれます。それはまさに私たちのふるさとの景色。季節とともに姿が変わっていくのが毎年楽しみになってきます。

デメリット

木の根元と落ち葉

 雑木の庭は日本の古くからある原風景を再現できるとても魅力的なものではありますが、デメリットが無いわけではありません。むしろ、本来はちょっと街から離れた場所にあるようなものを住宅街で再現することになるので、デメリットを完全に認識した上で庭づくりを行っていく必要があります。どんなデメリットがあるのか、チェックしてみましょう。

高木への注意

 雑木として植えられる木には、かなりの大きさになるものがあります。たとえばコナラやケヤキなら、よく育てば10m以上の大きさになることは珍しくありません。木が10mを越すような高木に育つと、もはや一般的な個人が管理できるほどの大きさではなくなります。枯れ枝が落ちたり木自体が倒れたりする危険性があるため、それらのリスクを適切に見極めたり、場合によってはそれらの危険を排除するような手立てが必要です。
 後ほど詳しく説明しますが、自宅の2階だったり周りの建物だったりの日照を遮ってしまうことや、落葉期に大量の落ち葉が近隣にばらまかれることなど、近隣住民とのトラブルになりかねないようなデメリットもあります。植える樹種によっては、高木にならないよう小さいうちから剪定で大きさを調整するなどの管理は必須となるでしょう。

根っこによる破壊力

 木が大きくなってくると、根っこも同時に太くなります。コンクリートの隙間などに入った根っこが太くなると、その力でコンクリートが割れてしまうことがあります。この破壊力は相当なもので、街路樹の根っこが太くなる力で道路のアスファルトが破壊されてしまうこともあるほどです。それなりの広さがある庭なら、コンクリートなどから少し離れた場所に木を植えればそこまで問題になることはありませんが、狭い庭に雑木の庭をつくり出すときなどでは、成長した木の根っこに庭の端のコンクリートが押し出されてしまう危険性があります。
 ただし、そこまでの状態になるにはある程度狭い場所に植えて、なおかつ相応の年月が必要になるので、きちんと見ていれば木の大きさなどからある程度予測できることも多いです。心配しすぎると雑木ではない木ですら植えられなくなるので、あくまでそういうこともあるといった程度に考えておきましょう。

ご近所との関係

 近隣に住んでいる住民との関係が、一番問題になりやすいかもしれません。具体的には、落葉期に落ち葉が飛んでくる、木が大きくなりすぎて日照を遮ってしまう、木が茂っていると虫が発生する、鳥が巣をつくって鳴き声がうるさい、などです。
 普段から関係づくりをして、こうした庭をつくりたいと思っているなどの話をあらかじめしておけば問題にならない場合もありますが、引っ越してきて新築で雑木の庭をつくるような場合ではご近所との関係性をあらかじめつくっておくことは困難です。自分が良いと思ってつくる庭でも、近隣住民にとっては迷惑になる場合もあります。中には、本当は大して気にしていないのに何かといちゃもんをつけたくて文句を言ってくる方もいます。毎日落ち葉を掃いたり木を大きくなりすぎないようにしたりして迷惑にならないような庭づくり・関係性づくりをすることが大事です。

雑木の庭づくりのポイント

芝生と電球マーク

 雑木の庭づくりを行う場合、基本的には好きな木を好きなように植えたら良いのですが、そのうえで注意すべきポイントがいくつかあります。どんなところに気をつけたほうが良いのか、ポイントをチェックしておきましょう。

土づくりの要点

 雑木を植える土をつくる際には、基本的にはホームセンターなどで市販されているものから木を育てるのに適しているものを購入して使えば問題ありません。植える植物によっては苦土石灰などで土の酸度をアルカリ性に矯正する必要がありますが、雑木の庭に用いられる樹種はほとんどが日本の森林環境でよく育つ植物です。日本は雨が多く、アルカリ分は雨によって流されてしまいます。そのため、日本の森林土壌は弱酸性から酸性であることが多いので、基本的には苦土石灰などで酸度の矯正をする必要はありません。アルカリ性を強くしてしまうと、かえって育ちが悪くなる原因となる場合もあります。
 また、里山で育つような木は、昔の人が堆肥用に落ち葉を収穫しても(栄養の少ない環境にしても)よく育つ樹種が多いです。様子を見て調整する必要がありますが、肥料をあまり与えなくてもよく育つ場合もあります。

日照について

 雑木の庭でよく用いられる種類の木は、多くが明るい環境を好みます。そのため、たとえば常緑樹の下など日照が弱い環境ではうまく育たない場合があるので注意しましょう。どのくらいの日照を好むかは木の種類によって変わり、自然の森の中では大きな木の少し下で育っていることの多いイロハモミジなどでは、直射日光が当たりすぎて暑くなる環境ではうまく育たない場合もあります。
 また、高木の下で育つことの多い低木種では、日当たりの強すぎる環境が苦手な場合があります。その木が本来どんな環境で育つのかをよく調べ、それを再現するような気持ちで日照を調整してみましょう(日照の強い、弱いは、徐々に慣らしていくことで問題なく育つようになる場合もあります)。

雑木の植え方

 雑木は、並木のように整然と並べるよりは、ちょっとばらつくくらいに植えた方が自然の情景を再現しやすいです。また、高木の影になる場所に低木を植えるなどすると、日照がそれぞれちょうど良くなり元気に育つことがあります。また、それぞれの木が成長すると枝が横に広がっていくので、あまり密集しすぎない植え方がおすすめです。最初はちょっと寂しいくらいの並びで植えると、後々ちょうど良い配置になります。

雑木の選び方

CHOICEの文字

 雑木の庭に植えられる種類の木は様々なものがあります。大きさはどれくらいになるのか、おいしい、またはきれいな実がなるのかどうか、どんな花が咲くのか、秋には黄葉するのか紅葉するのかなどの性質を調べたり聞いたりして、自分の好みに合わせて木を選んでみましょう。
 種類が決まってその中でどの苗を選ぶかということで迷った場合、他の苗と比べて極端に元気がないというような場合でなければどれを選んでもさほど違いはありません。何か微小な違いはあるかもしれませんが、いずれにしても育っていくうちに剪定管理などしていく中でその差は埋まっていきます。強いて言うなら、自分が見て直感的にビビッと来たものを選んでみると良いでしょう。

欠かせない雑木のおすすめ

 雑木の庭をつくる場合、紅葉が美しい樹種や花や実が目立つ樹種など、季節によって見た目に変化のあるものを植えるのがおすすめです。たとえば、アオダモ(コバノトネリコ)は、涼しげな見た目だけでなく秋にはとても綺麗に紅葉します。春から初夏に白い小さな花が集まって咲き、秋には赤くてきれいな実がなるガマズミなどもおすすめです。雑木の庭でなくても植えられるイロハモミジも、紅葉がきれいなのはもちろん、冬の落葉後にはシカのひづめのような冬芽が目立ち、春には小さいけれど真っ赤に染まった花が咲きます。
 必ずこれを植えるべし、というものはありませんが、やはり見た目が変化すると成長している実感があって楽しいです。良さそうな木を見つけたら「木の名前 花」などで画像検索し、あらかじめ季節ごとの姿を見てから決めるのも良いでしょう。

庭の広さに合わせた植樹方法

 庭の広さに合わせて、木の植え方を変えていきましょう。広い庭がある場合は、その広さを活かして雑木林を再現するような形にしても良いし、花がきれいなエリアや紅葉がきれいなエリアなど、コンセプトに応じてエリア分けしてみても楽しいです。
 あまり広い庭ではない場合、所狭しと色々な木を植えていると、それぞれの木が育つうちにぎゅうぎゅうになってしまい、パッと見ごちゃごちゃしたヤブのような庭になってしまうことがあります。そうなってしまうとそれぞれの木が健康に育たないし、結局全部強剪定してそれぞれの良さが引き出せなくなってしまうようなこともあります。あれこれ植えたくなる気持ちをぐっと抑えて、コンセプトを統一した上でそれぞれの木が育つスペースを確保して植えるのがおすすめです。

雑木の剪定方法

地面に置かれた軍手とはさみ

 雑木の庭では、生け垣のように決まった形に剪定するのではなく、自然樹形を保った剪定をすることがおすすめです。ぶつ切り剪定になってしまうと、樹形が崩れるだけでなく木が弱ったり、花が咲かなくなったりする場合もあります。自然な樹形を保つように注意しながら剪定しましょう。

透かし剪定のポイント

 自然樹形を保つには、「透かし剪定」という剪定をするのがおすすめです。透かし剪定は、名前の通り枝を透くような形で剪定を行う方法です。いくつか枝分かれしている中で、そのうちのいくつかを根元から切ります。ポイントは枝分かれの根元からしっかり切ること。枝の途中で切ってしまうとそこが目立って不自然な形になってしまうし、剪定の傷が塞がるのも遅くなってしまいます。
 また、大きさを調整する場合は「切り戻し剪定」を行うのがおすすめです。切り戻し剪定は、小さくしたい枝を、途中の枝分かれ部分で切る方法です。いくつかある枝を根元から切って減らす透かし剪定と違って、切り戻し剪定は一つの枝を短くするために行う方法です。枝分かれの部分で切ることで、切った跡が目立たないので自然樹形を保ったまま木を小さくすることができます。実際的には、透かし剪定と切り戻し剪定をうまく組み合わせながら行っていくことで自然樹形のまま剪定することができます。

剪定に使用する道具

 剪定には、剪定バサミや木バサミのような、枝を一本一本切る道具があれば十分です。複数の枝をザクザク刈り込むようなことはしないので、刈り込みバサミは必要ありません。また、木が大きい場合は高枝切りバサミや高枝ノコギリ、もしくは脚立などの道具も必要になります。木の大きさや用途に応じて道具を揃えておきましょう。

高木とその役割

屋根と背の高い庭木

 高木となる木には、シンボルツリーになる役割がありますが、他にも日照を遮ったり目隠ししたりする用途もあります。ただし、大きくなりすぎると枝の位置が高くなりすぎて日照の調整や目隠しなどの効果が薄くなったり、落ち葉や日陰が近隣でトラブルになる場合もあります。どの程度の大きさで止めて、それ以降は毎年剪定して調整するのかなど、植える際にあらかじめ決めておきましょう。

落葉樹による日差しの調節

 落葉樹は、西から南西に植えることで、温度の高い西日を防ぐ効果があります。そのため、古くから屋敷の周りの林には西側にケヤキなどの落葉樹が植えられてきました。なぜ常緑樹ではなく落葉樹かというと、冬には落葉して暖かい日差しを取り入れることができるためです。季節に応じて、温度の調節をすることができます。強い西日が当たると幹が日焼けしたり、木の種類や環境によっては枯れてしまったりすることもあるので、西日の当たる場所の落葉樹は剪定を控えめにしたり、植え付けの際に水やりをしっかりしたりとちょっと丁寧に扱うのがおすすめです。

高木の個性

 高木になる種類では、種類や個体ごとに個性がでてきます。たとえばケヤキでは、竹ぼうきを逆さまにしたような樹形が特徴です。サクラの仲間では、種類や品種ごとに少しずつ違った花の咲き方をします。木があまり大きくないころはパッとしなかったのに、大きくなってから個性が出てくるようなこともあります。

中低木の特徴

赤い実と緑の葉

 中低木は、赤や黒のきれいな実がなるものが多いです。多くは、鳥が食べたあとにフンと一緒に種が遠くへ運ばれるタイプの果実になります。高木にも同じタイプの果実をつけるものがありますが、高いところから風に乗せて種を散布するものの割合も多いです。また、木の種類にもよりますが、多くは森の中では高木の下で木漏れ日を浴びながら暮らしているので、いきなり直射日光が当たる場所に植えると弱ったり枯れたりしてしまう場合もあります。

下草と地被類

小さな草花

 基本的には多くの木を植えることになるので、下草や地被類(グランドカバー)はやや耐陰性(暗いところでも生きられる)のあるものを選ぶと良いでしょう。ただ、落葉樹の下は常緑樹ほど暗くないので、落葉樹主体の庭にする場合は常緑樹主体の庭に比べて少し選択肢が増えます。日本の原風景を再現するなら、いわゆる山野草を植えてみても良いでしょう。

狭い庭での雑木の庭づくり方法

庭の中にいる女の子

 狭い庭では、狭い庭なりの空間の作り方があります。基本的にはあれこれ植えすぎてしまうと窮屈になってしまうので、植える量は少なめにする方がおすすめなのですが、効率的に植えていくと意外とたくさんの木を植えることができます。どんな方法をとれば良いのかチェックしてみましょう。

立体的、階層的な空間の捉え方

 高木の下に中低木、その下に地被類などと立体的に組み合わさるように植えていくと、狭い庭の中にたくさん植えることができます。耐陰性もそれに合わせたものにしていけば、それぞれが元気に育つ空間をつくることも可能です。実際の森の中でも、草本、低木、亜高木、高木といった順番で階層構造をつくっています。しかし、狭い庭でそれを再現するにはそれぞれが大きくなりすぎないように定期的な剪定管理が必須となります。コンパクトに収まるように意識しつつ、手入れをする場合のことも考えて植えていくのがおすすめです。

落葉樹と常緑樹の組み合わせ

 落葉樹と常緑樹を組み合わせて植えると、冬になっても寂しくない庭ができます。赤い実と常緑樹の濃い緑はツートンカラーになってよく目立つので、秋から冬にそれぞれが映えるような庭づくりをしてみるのも楽しいかもしれません。色々な木を植えることで、それぞれの季節に応じた楽しみ方ができるようになります。

雑木の庭の楽しみ方

木にとまる鳥

 雑木の庭は、自然の雑木林のような風景やそれぞれの木の四季折々の姿を楽しむことができます。古くから日本の山野に生えている木を植えることで、まるでふるさとに帰ってきたかのような懐かしい気持ちになれることも魅力的です。また、日照の調整や目隠しなど、庭として必要な機能もバッチリ果たすことができます。そこから鳥の来る庭を目指したり、植える種類をこだわってみたりと、楽しみ方は様々なので、自分だけの楽しみ方を探してみると良いでしょう。

今後のトレンドや注意点

水草と小さな魚

 コロナ禍によって自宅で何かを楽しむことが流行し、今でもその流れを汲んで自宅で様々な趣味を楽しむ方が増えています。また、自宅の庭でもできるビオトープづくりが話題になることもありました。今後は自宅の庭になにか一つこだわりをもってつくっていくとより楽しめるかもしれません。

瀬尾 一樹
監修者 樹木医 瀬尾 一樹

樹木医です。木も草も大好きで、将来は自分だけの森を持ちたいと思っています。木の美しさや育てる楽しさだけでなく、生きものとしての生態的な面白さも伝えていきたいです!好きな木はケヤキです。

執筆者 瀬尾一樹

樹木医です。木も草も大好きで、将来は自分だけの森を持ちたいと思っています。木の美しさや育てる楽しさだけでなく、生きものとしての生態的な面白さも伝えていきたいです!好きな木はケヤキです。