早春に咲く白い花といえば、コブシを思い浮かべる人も多いだろう。
日本原産の樹木で、かつてはコブシの開花が農作業の指標とされていた。暑さ寒さに強く、日本全国で街路樹や公園樹として利用されている。
大きくなるため、広めの庭やパブリックスペース向き。
基本データ
- 分類
- 庭木-落葉
- 学名
- Magnolia kobus(Magnolia praecocissima)
- 科・属名
- モクレン科モクレン属
- 別名
- ヤマアララギ、田打ち桜、コブシハジカミ
春の訪れを知らせる代表的な花木
コブシとは
コブシ(辛夷)は、モクレン科モクレン属の落葉高木。
北海道~九州の山野に自生している日本生まれの樹木です。
主に、公園樹や街路樹として利用されていますが、庭木として人気のあるモクレンやマグノリアの仲間です。
3月~4月になると、香りの良い白い花を咲かせます。
花が葉よりも先に出てくるため、開花中のコブシの木は、遠くから見ても非常に目立ちます。
古くから、コブシの開花が田植えや種まき、イモの植え付けといった農作業を始める目安とされてきました。
コブシは、樹高10m程度まで生長する高木です。
庭木としては、樹高が低くコンパクトな近縁種「シデコブシ(ヒメコブシ)」のほうが、管理が容易なため一般的でしょう。
コブシのつぼみを乾燥させたものは、生薬として利用されます。
「コブシ」の名は、つぼみや実が握りこぶしに似ているから
コブシの名前の由来には諸説あり、でこぼことした果実(集合果)を握りこぶしに見立てたとする説や、花が咲く前のつぼみが子どもの握りこぶしに似ていたからとする説があります。
和名のコブシが、学名(Magnolia kobus)や英名にもそのまま利用されています。
中国での呼ばれ方や生薬名は「辛夷(しんい)」で、この漢字にこぶしの読みがあてられました。
コブシとハクモクレンの違いと見分け方
コブシと同じモクレン属の「ハクモクレン(白木蓮)」は、同時期に似たような花を咲かせるため、混同されやすい樹木です。
コブシとハクモクレンの見分け方を解説します。
コブシの花
ハクモクレンの花
コブシとハクモクレンの花の違いは、「花の開き方」「花びらの枚数」「花の向き」です。
コブシの花が完全に開ききるのに対し、ハクモクレンの花は半開きでチューリップのような形をしています。
コブシの花弁は6枚、ハクモクレンの花弁は9枚なので、花びらの枚数を数えれば容易に区別できます。
また、コブシの花が上向きや横向きなどバラバラな方向に向かって咲くのに対し、ハクモクレンの花は揃って上を向くので、より均整のとれた印象となります。
細かな違いとしては、ハクモクレンの花のほうがやや大きめで、花弁が肉厚な傾向にあります。
なお、生育旺盛なコブシは、ハクモクレンを接ぎ木するときの台木としても用いられます。
シモクレン(紫木蓮)の花
モクレンの基本種である「シモクレン(紫木蓮)」は、花がピンク~紫色なので、コブシとは簡単に見分けられます。
つぼみが鼻のトラブルに作用する生薬として使われる
コブシの花蕾
コブシの花蕾を乾燥させたものは、生薬の「辛夷(しんい)」として利用されてきました。
辛夷の主な効能は、排膿・鎮静・鎮痛・抗炎症作用など。
鼻づまりや鼻炎、蓄膿症などに用いられる「辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)」や「葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」に含まれます。
広めの庭やパブリックスペースにおすすめ
3月~4月に花を、9月~10月に果実を鑑賞できる
コブシは、早春の花にはじまり、夏の緑葉、秋の結実と紅葉、冬の落葉と、季節によりさまざまな表情を見せてくれる庭木です。
秋になると赤く色づくコブシの実は、集合果といっていくつかの種子が寄り集まった、見ごたえのあるものです。ヒヨドリやツグミなどの鳥が実を食べにやってくるので、バードガーデンにも向いています。
熟した種を採り、種まきで増やすこともできます。
大きくなっても良ければ剪定しなくてOK
コブシは、基本的には剪定しなくても良い木です。
コブシの幹にはまっすぐ伸びる性質があり、樹形も自然と卵型にまとまります。
管理方法が楽な庭木を探している人にぴったりでしょう。
ただし、生長すると樹高が10m以上になる高木だということは忘れずに。
スペースの都合上、あまり大きくしたくない場合は、サイズを調節するための剪定や切り戻しが必要になります。
庭木にはコンパクトにまとまるシデコブシがおすすめ
大きく生長するコブシは、小さな庭や玄関前のちょっとしたスペースには向きません。
ある程度のスペースを確保できる広い庭や、企業や学校に併設する広場などのパブリックスペースに最適です。
隣家との間隔が狭い住宅地などでは、樹高3m~4m程度とコンパクトにまとまる「シデコブシ」のほうが育てやすいでしょう。
シデコブシは、コブシの近縁種で、白やピンクの花をコブシと同時期に咲かせる落葉小高木です。
コブシよりも花びらが細いのが特徴です。
コブシの育て方と特徴の詳細情報
- 草丈・樹高
- 5m~18m
- 栽培可能地域
- 全国
- 花色
- 白
- 開花期
- 3月~4月
- 結実期
- 9月~10月
- 耐暑性 / 耐寒性
- 日本の山野にも自生するコブシは、日本の気候に適しており、耐暑性・耐寒性共に優れています。
真冬の寒さ対策なども特に必要ありません。
コブシの育て方と特徴の育て方・管理方法
- 植え付け・植え替え
- 植え付けや植え替えを行うのは、休眠期の2月~3月上旬が最適です。
やや湿っていて、腐植質に富んだ肥沃な土壌を好みます。
将来的には大型になる樹木なので、ある程度のスペースを確保できる場所に植えます。
根が粗く移植が難しいため、植え付け場所は慎重に選んでください。鉢植えでの栽培は難しいでしょう。 - 肥料
- 植え付け時には、元肥として堆肥や腐葉土をすきこんでください。
植え付け後、木が若いうちは、休眠期の1月~2月に緩効性化成肥料または油かすを株元に施します。
成木には、肥料はほとんど必要ありません。 - 剪定
- 剪定しなくても樹形が自然に整いやすいのがコブシの特徴です。
大きくなってもかまわない場合、特に手入れは必要ないでしょう。
スペースの都合上、樹高や枝の広がりを抑えたい場合は、適宜枝を切り詰めて大きさを調節してください。
剪定時期は、葉が落ちたあとの11月~3月がベスト。
この時期になると花芽と葉芽の区別が付きやすくなり、花芽を残しやすいためです。
剪定で花芽を多く落としてしまうと、翌年の花が減ったり、咲かなくなったりします。 - 病害虫
- 病害虫には比較的強い種類ですが、幹の内部を食い荒らすテッポウムシに注意します。
テッポウムシは、カミキリムシの幼虫で、幹に穴をあけて内部に住み着く害虫です。
幹に穴が空いていたり、株元に木くずが見られたりといった兆候があれば、すみやかに専用の薬剤で駆除しましょう。
また、葉や枝に発生して吸汁するカイガラムシや、白い粉のようなカビが発生するうどんこ病にかかることがあります。いずれの場合も、発生初期に適切な薬剤で対処することがベストです。事前に薬剤を散布しておき、予防しても良いです。 - 日当たり
- 一度根付いてしまえば、特に水をやる必要はありません。
植え付け直後や、極端に乾燥しやすい場所に植えた場合のみ、株元に水を与えてください。 - 水やり
- 一度根付いてしまえば、特に水をやる必要はありません。
植え付け直後や、極端に乾燥しやすい場所に植えた場合のみ、株元に水を与えてください。
出典(引用元)
椎葉林弘『よくわかる庭木大図鑑』永岡書店
小幡和夫ほか『樹木博士入門』全国農村教育協会
植物が大好きなライターです。小学校の自由研究は「雑草の研究」でした。忙しい毎日でも無理なく楽しめるガーデニングを日々研究しています。雑草&野草・カラーリーフ・球根植物・100円ショップの園芸グッズ。