庭に植えられる植物として、「蔦(ツタ)」があります。うまく這わせることができれば、庭や建物を森の中のようなオシャレなレイアウトにすることができます。蔦にはどんな種類があるのか、どのようにお手入れすれば良いのか、詳しくご紹介します。
目次
蔦(ツタ)ってどんな植物?
蔦(ツタ)とは、壁を這うように登っていく性質のあるつる植物の一種です。ほかにも、似たようなものを同じように蔦と呼んだり、つる植物をまとめて蔦と表現したりすることもあります。
蔦がどんな植物なのか、狭い意味での蔦、広い意味での蔦両方の側面からご紹介します。
蔦そのものは1種類
本来、蔦という植物は、ブドウ科ツタ属に含まれるつる植物のツタParthenocissus tricuspidataという植物のことを指します。本種はナツヅタとも呼ばれ、日本に自生する植物の一種です。
他のブドウ科つる植物はつるの途中から出るまきひげと呼ばれるもので他のものに絡みついて生い茂りますが、ツタはまきひげが吸盤のように変化しており、壁を登るように成長するのが特徴になります。森の中では大きな木の幹を覆うように育ち、街中では古い建物の壁などを埋め尽くすように育っていることが多いです。甲子園球場を覆っているつる植物も、多くがツタです。
他に日本に生える近縁種には、南西諸島などに生えるアマミナツヅタという種類がありますが、本州で見かけることはありません。
秋に落葉し春に芽吹く落葉性
本来の意味での蔦(ナツヅタ)は、落葉性のつる性木本です。秋から冬にかけて落葉し、つるの姿で冬を越します。冬になると、吸盤状に変化したまきひげが壁のあちこちにくっついているのを観察することができます。
また、秋に真っ赤に紅葉する様はとても美しく、童謡の歌詞にも入れられているほどです。春になると新しく葉っぱを展開し、青々と茂るようになります。
常緑性の蔦について
ほかにも、蔦と呼ばれる植物の中には常緑性のものもあります。キヅタやアイビーなどと呼ばれるつる植物たちです。キヅタというとナツヅタの近縁種のように思えてしまうかもしれませんが、ナツヅタがブドウ科であるのに対し、キヅタやその仲間はウコギ科というグループに含まれる全く違った種類です。
これらの蔦は常緑性で、冬になっても葉っぱが落ちることはありません。ナツヅタが吸盤状に変化したまきひげを使って壁を登るのに対し、キヅタやその近縁種はつるの途中からあちこち根っこ(気根)を出して、壁に貼り付けて登っていくという違いがあります。大きく育ったキヅタの近縁種では、つるが細かいたくさんの根っこに覆われて、まるでブラシのようです。
庭に生える、植えられる蔦の種類
庭に植えられる蔦には、いくつかの種類があります。環境によっては、鳥が種を運んできたり隣の家から伸びてきたりするなどして、勝手に生えてきてしまうこともあるでしょう。庭に植えられるものや、勝手に生えてくる可能性のあるものまで、それぞれの特徴をご紹介します。
ツタ(ナツヅタ)
狭い意味での蔦になるのは、ツタという種類の植物です。ナツヅタとも呼ばれ、日本では街中にも生えるほどよく見ることができます。鳥が種を遠くに運ぶので、庭に勝手に生えてくる場合も少なくありません。
ある程度暗い場所でも育ち、伸びる速度は速いです。秋になると真っ赤な紅葉が非常に美しいのも魅力のひとつ。成長速度が速い分定期的なお手入れは必要ですが、お庭の雰囲気作りに一役買うことができます。
また、つる植物ではありますが上手に仕立てれば立木のようになり、盆栽として活用されることもあります。
アメリカヅタ
アメリカヅタは、狭い意味での蔦(ナツヅタ)と近縁なブドウ科のつる植物です。五枚に分かれた葉っぱが特徴です。ナツヅタと同様に壁を這って育つ性質がありますが、ハンギングのようにしてつるをぶら下げて育てる場合もあります。
こちらも紅葉が綺麗で、斑入り品種もあるのでナツヅタとはまた違った雰囲気が楽しめます。
ヘンリーヅタ
ヘンリーヅタもナツヅタやアメリカヅタと近い仲間であるブドウ科の蔦です。アメリカヅタによく似た5枚の葉っぱが特徴ですが、ヘンリーヅタは葉脈の部分が白く抜けたようになります。
アメリカヅタと同じようにハンギングにしたり、壁に這わせてみたりと様々な楽しみ方ができます。
キヅタ
キヅタは、ナツヅタやアメリカヅタとは違ってウコギ科というグループに含まれる蔦です。ナツヅタなどブドウ科の蔦と違って常緑性で、ふつう紅葉はしません。一年中青々とした見た目を楽しむことができます。
また、つるの途中からたくさんの根っこを出して壁に張り付くのが特徴です。濃い緑色の葉っぱが魅力的で、落葉性の蔦とは違った楽しみ方ができます。日本在来の蔦で森の中などに普通に生えていて、鳥が種を遠くへ運ぶので勝手に庭に生えてくる可能性もあります。暗いところでもよく育つので、様々な環境で育つのも魅力の一つです。
セイヨウキヅタ
セイヨウキヅタは、キヅタとごく近縁な種類です。キヅタによく似ており、確実に見分けるには葉っぱの裏や柄、若枝に白い毛が多く生えることを確認しなければいけませんが、セイヨウキヅタの方が切れ込みが深い傾向にあります。
星型の葉っぱがかわいらしく、様々な園芸品種がつくられているので好みに合わせて選んでみるのがおすすめです。
アイビーやヘデラについて
ホームセンターや園芸店には、「アイビー」「ヘデラ」などの名前で様々なキヅタの仲間が売られています。これはセイヨウキヅタから改良されたものが多く、葉っぱの形の切れ込みや色、斑入りなど様々なバリエーションが存在します。どの色形のものを植えるかによって庭の雰囲気も変わってくるので、好みのものを選ぶようにしましょう。
オカメヅタ
オカメヅタはカナリーヅタとも呼ばれるウコギ科の常緑性の蔦で、都市部の道路やビルの緑化などに使われることが多い種類です。大きくて緑色の濃い葉っぱが特徴的で、暗いところでもよく育つうえによく繁茂して他の雑草が生えにくくなるため、高速道路の高架下や街路樹の植え枡などによく植えられているのを見かけます。
葉っぱの大きさも相まってスペースを多く使うので、植えるのなら場所をきちんと選ぶことと、定期的な剪定などの手入れを欠かさないことに留意しておきましょう。
観葉植物としてのツタ
庭に植えるだけでなく、アメリカヅタやセイヨウキヅタなどは観葉植物としてもよく用いられます。特にアイビー、ヘデラなどはホームセンターの観葉植物コーナーで売られているのを見かけることが多いです。
多くの種類は耐陰性が強く、明るい場所なら室内で育てることができるので、ぶら下げたカゴからつるを下に伸ばすハンギングの形で観葉植物として育てることもできます。
その他のつる植物
蔦の仲間ということで、比較的狭い意味での蔦についてご紹介してきましたが、つる植物全般を指して蔦と呼ぶこともあります。庭に植えられるようなものもあれば、勝手に生えてきて雑草のようになってしまうものも多いです。
つる植物全般のうち、お庭に生えるか植えられるもので代表的なものを項目ごとにご紹介します。
庭に植えられるおすすめつる植物
つる植物全般の中で、庭に植えられるおすすめのつる植物をご紹介します。様々な種類がいて、それぞれに違った魅力があるので、庭の雰囲気や好みに合わせて選んでみるのがおすすめです。放っておくとたくさん繁茂してしまうものが多いので、いずれも定期的なお手入れは欠かさないようにしましょう。
ゴーヤ
ゴーヤはウリ科のつる植物で、グリーンカーテンなどによく用いられます。プランターからネットの上を這わせるような形で、建物の壁を彩る形になることが多いです。黄色い大きな花が美しく、切れ込んだ葉っぱもかわいらしいので、果実だけではない楽しみ方ができます。
トケイソウ
トケイソウはトケイソウ科のつる植物で、その名の通り時計のような形をした派手な花が特徴的です。切れ込んだ葉っぱもかわいらしく、トケイソウにしかない見た目を楽しむことができます。寒さに少し弱いですが、種類によっては関東地方の沿岸部くらいなら外でも冬を越せる場合があります。
逆に、暖かい地方では増えすぎてしまうことがあるので注意しましょう。
クレマチス
クレマチスはキンポウゲ科のつる植物です。種類や品種が様々で、非常に多くのバリエーションがあります。鐘のような形の花がぶら下がってつくものや、大きく派手な花が咲くものなど、様々です。花の咲く時期や色形まで、好みのものを選ぶことができます。
アサガオ
アサガオはヒルガオ科のつる植物です。小学校のころ宿題で育てていた方も多いのではないでしょうか。学校のイメージが色濃くついてしまっていますが、大きな花がたくさん咲く様子は改めて見ると美しく、その育てやすさからも人気があります。
また、古典園芸植物として古くから育てられてきたので、アサガオとは思えないような花や葉っぱの形をしたものもあります。種から芽生えて育つので、育てる場合は庭の外に野生化しないように注意しましょう。
つるバラ
つるバラは、名前の通りつる性になるバラです。庭の柵沿いで育てたり、アーチを覆うように育てたりすることが多いです。バラの美しさもさることながら、膨大な品種があるので様々なバリエーションを楽しむことができます。
カロライナジャスミン
カロライナジャスミンはゲルセミウム科(マチン科とされることもあります)のつる植物です。ジャスミンティーなどに使われるジャスミンとは違う仲間ですが、ジャスミンに似た甘い良い香りがするのが特徴です。
黄色いラッパのような花を咲かせるのが特徴で、ジャスミンとはまた違った美しさがあります。
ハゴロモジャスミン
ハゴロモジャスミンは、モクセイ科のつる植物です。こちらはジャスミンティーの原料となるマツリカと同じモクセイ科で、とても良い香りがします。白い花がたくさん咲く様子も美しく、育てやすいので人気のつる植物です。
雑草として勝手に生えてくるつる植物
つる植物の中には、庭に植えられるものもあれば雑草として勝手に生えてくるものもあります。時にやっかいな存在になることもありますが、名前を知ることで対処の算段も立てやすくなります。
また、野生種でありながら園芸種に負けない魅力を持つものも多いです。どんな種類があるのかチェックしておきましょう。
ヤブカラシ
ヤブカラシは、ブドウ科のつる植物で、お庭に雑草として生えてくるつる植物の代表格です。名前の通りヤブを覆い尽くして枯らしてしまうほどの繁殖力で、地下に栄養を貯めた根っこを張り巡らせているため、抜いても抜いても生えてきます。
ヤブカラシのつるの巻き方やアリを利用する戦略、花に集まる虫の多様さなど、ヤブカラシ自体の生態は面白いですが、お庭で繁茂してしまうと少し厄介です。
茎があまり丈夫ではないので、とにかく見つけたら引き抜くことと、可能なら地下の根っこを掘り起こすことで勢いを多少は抑えられます。しかし、完全に庭から駆除するのは少し難しいです。
東日本などでは種をつくらないものが多く(3倍体)、基本的にお庭への侵入経路は根っこの欠片が土に紛れているか、近隣から伸びてくるかになります。西日本など種をつけるヤブカラシ(2倍体)が周りにいる場合は、鳥が果実を食べて種を遠くへ運ぶルートも考えられます。
ヘクソカズラ
へクソカズラはアカネ科のつる植物で、ヤブカラシと並んでお庭の雑草として生えてくる種類です。名前の通り葉っぱを揉むと臭い匂いがするのが特徴で、ヤブカラシほどではないにしろ強い繁殖力を持っています。
つるを辿っていくと太い根っこにたどり着くので、それを抜けばかなりの量を駆除できるため、ヤブカラシに比べれば駆除しやすいです。
一方で花はかわいらしく、果実は乾いても萎まないのでリースなどの材料になるなど、魅力もあります。お庭への侵入経路は、鳥が果実を食べて種を運んでくるか、つるが周りから伸びてくるなどが考えられます。
ガガイモ
ガガイモは、キョウチクトウ科のつる植物です。葉っぱだけ見るとへクソカズラに似ていますが、葉脈が白く抜けた模様になること、茎をちぎると白い汁が出るなどの違いがあります。
繁殖力はそれほど強くありませんが、体質によっては茎をちぎったときに出る乳液に触れると良くない可能性があります。しかし、独特の構造をした花や、まるでイモのような果実はどちらも美しくて魅力的です。
クズ
クズは、マメ科のつる植物です。かなりの繁殖力を持っているのが特徴で、河川敷のような広い面積の草地ならあっという間に埋めつくしてしまうポテンシャルを秘めています。
一方で、侵入する機会の少なさもあってか一般的なお庭で繁茂している様子はあまり見かけないように思います。種が飛んでくるか周囲からつるや地下茎が伸びてくることがお庭への侵入経路と考えられますが、種は鳥が食べて運ぶわけではなく、鞘から飛び出していく程度なので、遠くへ運ばれることは比較的少ないです。
駆除するには、見かけ次第できるだけ根っこから引き抜くか、可能なら地下部を掘り起こしてしまうのがおすすめです。
また、十分な量を採るにはかなりの量が必要ですが、くず粉やくず餅などの材料になるので、広い庭があれば活用できるかもしれません。花は美しく、とても良い香りがして、意外にも鑑賞に適しています。
強い蔦やつるは野生化することも
雑草として生える蔦やつる植物に限らず、蔦やつる植物には丈夫なものが多いので、手入れが甘いと周囲に野生化するリスクがあります。場合によっては外来種として周囲に蔓延ってしまう可能性もあるので注意が必要です。
管理がずさんでどんどん野生化してしまうと、その植物自体が規制されてしまう可能性もあるので、節度を持ったお手入れを心がけましょう。また、敷地の境界を超えてつるが伸びてしまうと、隣の家の庭に侵入してご近所トラブルになる可能性もあります。
蔦やつる植物のお手入れ、管理方法
蔦やつる植物はよく伸びるものが多く、お庭で育てる場合はお手入れがほぼ必須となります。お手入れ不足だと、庭が埋め尽くされてしまうだけでなく、周囲に迷惑をかけてしまう可能性もあります。手のかけすぎもよくありませんが、定期的にお手入れして、美しい形を保てるようにしましょう。
定期的な剪定
蔦やつる植物を育てるにあたっては、定期的な剪定が必要不可欠です。伸びたつるを切り戻したり混んだ部分を整理したりして、繁茂し過ぎないようにしましょう。成長の速いものが多いので、基本的には多めに切ってしまうのがおすすめです。
また、剪定時期は冬の休眠期で、そこで全体の形を整えつつ成長量を考えて他の時期にも調整するような形になるのですが、花をたくさん咲かせたい場合は剪定の時期が変わってきます。花芽がいつごろどの部分につくのかによって時期や方法が変わってくるので、種類ごとにどのようになっているか調べてみましょう。
野生化に注意
多くのつる植物は、繁茂しすぎると周囲に野生化するおそれがあります。とくに、繁殖力が強いものやつるのあちこちから発根するようなものは注意が必要です。基本的に、「種」「つるや地下茎が伸びていく」「切ったつるから根っこが出る」といった原因が考えられます。
種は、特に一年でたくさんの種をつけて枯れるアサガオ類などで野生化の原因になりやすいです。種は土の中で何年も休眠するおそれがあり、一度野生化するとてをつけられなくなる可能性があります。ほかにも、ナツヅタなど果肉のあるタイプの果実をつけるものは鳥が種を運ぶ場合があるのでそちらも注意しましょう。
つるが伸びていき野生化するのは、多くの種類で起こりえますが、つるの途中から発根するタイプのもので起こりやすいです。近隣で根を出して定着し、別の株としてふるまい始めると駆除が難しくなります。
同じようにつるの途中から発根するものでは、剪定後に切ったつるを放置していたらそこから伸びることが考えられるので、袋に入れて処分するなどして対処しましょう。木の植え替えの際などに、根元につる植物の地下茎が混ざっていないかなども注意が必要です。
まとめ
「蔦」と呼ばれる植物が示す種類は、使う人の意味合いによって様々です。単にツタ(ナツヅタ)を指す場合もあれば、○○ツタという名前の総称の場合や、つる植物全般を指す場合もあります。そう捉えると、蔦という言葉が示す種類は膨大な量になりますが、それぞれに特徴や魅力があり、使いどころも様々です。
庭の雰囲気や自分の好みに合わせて、好きなものを選んでみましょう。