私たちは、都市化された生活圏の中で暮らしているため、肌感覚で森を感じることは少ないです。

しかし、わが国は、世界有数の森林大国なのです。国土の66%が森林であり、面積は2,505万haにも及んでいます。

森林のある山間部は、台風や地震の影響で起きる災害の発生場所であると同時に、木材などを生み出す資源の宝庫でもあります。

そして、この森林を維持・管理するのが、林野庁が所管する森林整備保全事業であり「森林土木工事」です。

この記事では、森林土木工事の概要と、工事に必要な建設業許可と資格についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

高杉 有希子
監修者 エクステリアプランナー 高杉 有希子

静岡県御殿場市の土建屋に生まれ、大型重機が大好きな子供時代を送る。
建築に憧れ、三重短大で住環境を学ぶ。新卒でハウスメーカーFC工務店の「インテリアプランナー」に応募するも、社長の勘違いで募集したかったのはなんと「エクステリアプランナー」!!
ハウスメーカーで個人住宅のエクステリアを担当。その後、ゼネコン住宅事業部のインテリアプランナー、植木屋の外構プランナーを経て、現在は(株)ガーデンメーカーで営業設計を務める。

執筆者 お庭の窓口(転職情報)編集部

お庭の窓口転職情報の編集部です。 社内の造園・外構のプロたちから助言をいただきつつ、皆様に有益な情報を提供できるように頑張ります。

目次

森林土木工事は治山と林道に大別される

山の斜面の補強

森林の土木工事は、治山工事と林道工事に分けられています。それぞれの仕事内容について見ていきましょう。

治山工事

国土の7割近くが森林のわが国では、森林を守り育てることが、そのまま国土の保全となります。また、森林を維持することは、生活に欠かせない水源を養生することにもなります。

さらに、整備された森林は、木材という恵みを私たちに与えてくれるのです。

治山工事は、集中豪雨などによる土砂崩れで崩壊した森林を再生したり、水源地帯の森林の荒廃を整備したりする仕事です。

また、地域の集落や農地などを災害から守るための防災林の造成などもしています。

林道工事

林道工事は、森林整備や木材の搬出路をするための道を整備する仕事です。

林道工事には、林道の新設工事、既存の林道の改良工事、被災した林道の災害復旧工事などがあります。

林道として、十分に機能を発揮する道をつくることを目的としていますが、地形や環境の改変は最低限に抑えなければなりません。無理な改変をすることで自然の体系を壊し、災害を起きやすくしてしまうことがあるからです。

治山工事は山を守り、人を災害から守る

治山工事

治山工事は、土工が中心になります。土工によって、山を守り、人を災害から守るのです。治山の土工には、渓間、山腹、地すべり防止の3つがあります。

渓間土工

渓間とは、谷あいとか谷間のことですが、治山の渓間とは山の谷川のことになります。

谷川の渓流の浸食や崩壊の防止のために施工される工事です。それによって下流域への過剰な土砂流出を防ぎます。

谷止工や床固工と呼ばれる治山ダムをつくることによって、渓床の勾配を緩和したり渓岸の浸食を防止したりします。治山ダム工の他、護岸工、水制工、流路工などがあります。

いずれもコンクリート構造物などの構築により、渓流をコントロールするのが目的です。

山腹土工

山腹工は、荒地となった山の斜面の浸食や崩壊を防いだり、植生を定着させたりすることで災害に強い森林を形成することを目的としています。

山腹工には、山腹基礎工と山腹緑化工があり、現地の状況によっては、落石防止工が施工されます。

山腹基礎工は、斜面を安定化させ、植生を形成しやすくするために施工する工事です。以下のような方法で施工されます。

のり切工崩壊した不安定な傾斜を緩和させて整地し安定した斜面を造成する
土留工コンクリートや間伐材を用いて土砂の移動を防ぎ斜面を安定させる
水路工降雨や湧水を排水させるための水路を設置して斜面の強度を上げる
法枠工急傾斜や土質が悪い斜面に部材を設置して内部を覆うことで安定させる

山腹緑化工は、構築された山腹基礎上に植物を植えたり、植生シートで覆ったりして緑化する工事です。緑化に先がけて、緑化基礎工として、階段状に柵を設けて表土の流失を防止することもあります。

落石防止工は、斜面上の岩や石を除去したり、コンクリートやワイヤーで固定したりする工事です。柵を設けて落石を防止するのも、落石防止工に含まれます。

地すべり防止工

大規模な土砂災害が予想される、或いは過去に発生した山間に施工されるのが、地すべり防止工です。

地すべり防止工においては、災害の予防、被害を最小限に抑えるという観点から綿密な監視体制が構築されます。この監視体制によって観測されたデータにより適切な施工が行われるのです。

集水と排水、押え盛土と排土、杭工など様々な工種を組合せて施工されるのが、地すべり防止工になります。

林道工事は林産物に関わる人の通行を確保する

林と道の間にある黄色い重機

森林には、林産物に関わる多くの人が出入りします。その人たちの通行の利便性を確保するのが林道工事です。

林産物の大半は、木材(樹木の幹部分)ということになりますが、樹皮や樹脂、葉、根、木の実なども林産物になります。キノコ類、山菜類、漆、木炭、木酢液なども林産物です。

林道工事は、大きく分けて、「開設・改良」「舗装工」「橋梁・鋼橋工関連」の3つになります。
仕事内容を施工の流れとともに紹介します。

林道の開設・改良

林道の開設・改良は、以下の流れで進められます。舗装の下地となる路盤工までが、開設・改良とするのが一般的です。

林道土工開設区域を基礎部分まで掘削して切土し低いところは盛土して転圧する
擁壁工切土・盛土等による路面や法面の崩壊・浸食を防止するために設置する
排水施設工林道に流入する地表水・地下水を排水するために設置する
法面保護工法面や盛土部分の浸食・崩壊を防止するため植生や構造物で保護する
防護施設工通行車両の林道外への転落防止と走行中の視線誘導のために設置する
路盤工主に路床や下層路盤を切り込み砕石などで整備する

舗装工

林道の舗装工は、通行車両の安全で円滑な通行と、周辺環境の保全のために施工します。

地盤改良工路床安定処理や必要に応じて路盤の置換工をする
舗装工アスファルトまたはコンクリートで表層・上層路盤を施工する
路面排水工路面の排水を目的として側溝や排水桝を設置する
標識工林道の起終点などに案内・警戒・規制などの標識を設置する
道路付属施設工道路の区画線、縁石、照明灯などを設置する

以上により、林道工事の完成です。

森林土木工事に必要な建設業許可と資格

均した山の斜面

ここでは、森林土木工事を請け負うために必要な建設業許可と、関連する資格について紹介します。

森林土木工事に必要な建設業許可

森林土木工事を請け負うためには、建設業許可が必要です。建設業許可業種29種の中に「森林土木工事業」というのはありません。

「土木一式工事」の建設業許可があれば、森林土木工事を請け負うことができるのです。また、発注者によっては、「とび・土工・コンクリート工事」でも請け負うことができる場合があります。

森林土木工事に関連する資格

森林土木工事に関連する資格としては、技術士(森林部門)、林業技士、森林情報士などがあります。

国家資格である技術士(森林部門)には、林業・林産、森林土木、森林環境の3つの分野がありますが、圧倒的に人気なのは森林土木の分野です。

技術士(森林部門)の資格があれば、森林土木工事の専任技術者として活躍できます。また、地方の営林局などで林業を管理する公務員としての道も開けるのです。

林業技士は、日本森林技術協会が認定する民間資格です。登録部門は、林業経営、林業機械、森林土木、森林評価、森林環境、林産、森林総合監理、作業道作設の8つがあります。

林業技士は、森林管理の立案や計画を策定します。林業技士は民間資格ですが、最大14年の実務経験が必要で、森林への知識や経験は高く評価されるものとなっています。

森林情報士も日本森林技術協会が認定する民間資格になります。森林情報士は、空中写真やリモートセンシングからの情報解析やGIS技術などを活用して、森林計画や治山、林道事業に対応できる専門技術者です。

いずれの資格も、近年の環境保全や資源の再利用などへの関心の高まりから、活躍の場は広がっています。

森林土木工事 まとめ

山間部と集落を上空から見た写真

森林土木工事は一般的な認知度は決して高いとは言えませんが、私たちの生活を支え、災害から守ってくれている工事の一つであると言えます。

また、地球温暖化防止や木質バイオマスへのニーズを反映し、森林に関する知識や経験を持つ専門技術者の必要性は高まっています。

森林大国であるわが国では、森林土木工事をはじめ、森林に関わる仕事は将来性のある仕事であると言えるでしょう。

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