複合商業施設や大規模製造工場、高層マンションなどの工事の現場を見たことがある方は多いと思います。
その時、建築途中の建物周りに組まれた金属製パイプの「足場」を、縦横無尽に移動して働いている作業者の姿を見たことがあるはずです。
この足場を組立てたり解体したりするのが、とび・土工・コンクリート工事業の土木会社で働く人たちです。
とび・土工の職人たちは、強固な足場を組んで、安全作業を支えているだけではありません。
仮囲いや基礎工事、コンクリート打設、揚重機を使っての資材の運搬など、商業施設・工場などの建築工事に欠かせない存在なのです。
ここでは、とび・土工の仕事内容を、商業施設・工場などの建築工事を例に紹介します。また、とび・土工に関わる資格などについても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
※「とび・土工・コンクリート工事業」は、一般的に「とび・土工」と略されて使用されることが多いので、この記事でも「とび・土工」で統一します。
静岡県御殿場市の土建屋に生まれ、大型重機が大好きな子供時代を送る。
建築に憧れ、三重短大で住環境を学ぶ。新卒でハウスメーカーFC工務店の「インテリアプランナー」に応募するも、社長の勘違いで募集したかったのはなんと「エクステリアプランナー」!!
ハウスメーカーで個人住宅のエクステリアを担当。その後、ゼネコン住宅事業部のインテリアプランナー、植木屋の外構プランナーを経て、現在は(株)ガーデンメーカーで営業設計を務める。
目次
商業施設・工場の建築工事では難度が上がる
一般住宅や店舗から、商業施設や工場まで、建築工事の着工から完成までの流れに大きな違いはありません。
しかし、商業施設や工場の建築工事のように規模が大きくなると、工事の施工性や安全性を確保するための難度は高まります。
まず、工事区画の敷地面積は大きくなり、作業者や資材の数も大幅に多くなります。
第三者災害防止のための仮囲い、作業者の安全作業のための強固な足場、高層階に資材を運ぶ揚重機などが必要になってくるのです。
このような場面で活躍するのが、とび・土工です。また、とび・土工は、土工やコンクリートの専門工事業者でもあります。
大規模建築工事の流れと「とび・土工工事業」
ここでは、商業施設・工場の建築工事で、とび・土工がどのように工事を支えているのかを紹介します。
仮囲い
仮囲いは、建設敷地を囲って分離し、工事区画を明確にすることで、工事関係者と第三者(近隣・通行人)の安全を図るものです。
仮囲いは、仮設工事に分類されます。工事車両や重機の通行で道路が汚損するのを防ぐ敷き鉄板や、現場事務所や仮設トイレなどと同様に、工事の終了とともに解体撤去される施設です。
仮囲いについては、建築基準法(令第136条の2の20)で規定されています。
概要は、木造建築物の場合は、高さが13mもしくは軒高が9mを超えるもの、木造以外の建築物で2階以上のものは、高さ1.8m以上の仮囲いを設けなければならないというものです。
最近では、仮囲いの見た目の圧迫性に配慮して、デザイン性の高いものが設置されるようになっています。
基礎工事
基礎工事とは、建築物や構造物と地盤をつなぐための土台をつくる工事です。
地盤調査によって得られたデータを基に、地盤状況や建物・構造物の特徴などによって、杭基礎、ベタ基礎、布基礎、独立基礎などから選択し施工されます。
とび・土工で施工されることが多いのが、杭基礎です。地盤が軟弱な場合に用いられることが多く、深さ数メートル以上の固い地盤まで杭を打ち込み支持地盤とします。
杭打ち、掘削、作業中の土止め、埋め戻しなどの、杭地業や土工事が主な仕事です。
足場の組立解体
足場の組立解体も、とび・土工の仕事です。労働安全衛生法では、2m以上の高所で作業するときは安全対策として、足場を設置することを義務付けています。
足場は、外部足場と内部足場の2種類があります。
外部足場は、高所作業での作業者の安全対策であると同時に、飛散物・落下物などによる近隣・通行人に対する災害を防止するためのものです。
外部足場は、組立て方や材料の違いで、枠組足場、くさび緊結式足場、単管足場、吊り足場などがあります。足場が組み終わると、メッシュシートや防音壁が設置されることも多いです。
内部足場とは、室内の壁や天井など、建築物の内部の施工時に設置する足場のことです。
内部での作業なので、足場には軽量性や安定性、使いやすさが求められます。最近では、枠内昇降が可能なローリングタワー式の足場も登場しています。
足場も仮設工事に分類され、必要な作業が終了すると解体撤去されます。
コンクリート打設
基礎、土間、立上りなどのコンクリートを打設し、コンクリート構造物を築造するのも、とび・土工の仕事です。
とび・土工が関わるコンクリート工事についてまとめました。
コンクリート打設工 | 建築の基礎となるコンクリートを現場で型枠に流し打設する |
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コンクリート圧送工 | 搬送された生コンをポンプ車の油圧で圧送し型枠内に打ち込む |
プレストレストコンクリート工 | あらかじめ圧縮応力を加えたコンクリートによる施工 |
橋梁など土木工作物を総合的に建設する工事での、プレストレストコンクリート工は、「土木一式工事」に該当します。
鉄骨の組立・移動
とび・土工の仕事の一つに、鉄骨の組立や移動、高所での取付作業を行う「鉄骨組立工事」があります。
鉄工所などで製作された鉄骨を、現場で組み立てる仕事で、鉄骨建て方と呼ばれる仕事です。鉄骨の製作・加工から組み立てまでを一貫して請け負うのは、「鋼構造物工事」になります。
柱や梁になる鉄骨を吊り上げたりリフトアップしたりして、中層・高層での作業をサポートします。所定の高さまで枠組足場を組立てて作業台をつくり、作業台上で組み立てるのもとび・土工の仕事です。
建築資材・重量物の楊重・運搬
商業施設や工場などの建設工事現場で、機械器具・建設資材などの重量物を、クレーンやフォークリフトなどの揚重機を使って指定された場所へ運搬・配置するのも「とび・土工」の仕事です。
建設業許可では「とび・土工工事業」なのですが、総務省の「日本標準産業分類では「建設揚重業」の名称で分類されています。
そのため、現場で、「荷揚げ屋」とか「揚重業者」とも呼ばれますが、とび・土工工事業の建設許可業者でないと仕事をすることはできません。
その他の作業
ここまで、とび・土工の仕事内容について紹介してきましたが、まだ、紹介しきれていない仕事があります。とび・土工の仕事は多種多彩なのです。
以下に、代表的な工事をまとめました。
- 地すべり防止工事
- 地盤改良工事
- 土留め工事
- 吹付け工事
- 道路付属物設置工事
- 捨石工事
- はつり工事
- アンカー工事
基本的には、「基礎的」「準備的」工事です。制作・加工を伴う工事や総合的な工事は、別の工事業者が請負うものと認識しておけば間違いはありません。
とび・土工・コンクリート工事業に関わる資格
とび・土工の現場作業で必要な資格をまとめました。区分としては、職業能力開発促進法によるもの、建設業法によるもの、労働安全衛生法によるものなど3つあります。
職業能力開発促進法|とび技能士
とび技能士は1級から3級まであり、とびの仕事全般の技能を認定する国家資格です。3級は未経験でも受験できますが、2年は2年、1級は7年以上の実務経験が必要になります。
1級を取得すると、親方としての独立や職業訓練校で指導員としての将来も可能になります。
建設業法|登録鳶・土工基幹技能者
建設業法により国土交通省に認可された資格です。認定講習の修了者は、経営事項審査で加点(3点)対象になります。
認定講習を受けるには、以下の受講資格が必要です。
10年以上の(とび・土工の)実務経験
8年以上の(とび・土工の)職長経験
安衛法による職長教育受講、交付後5年経過している
以下の資格のいずれか1つ以上を有するもの
(とび1級技能士、1級または2級建築施工管理技士、1級または2級土木施工管理技士)
労働安全衛生法|講習修了によって得られる資格
- 型枠支保工組立等作業主任者技能講習
- 建築物等の鉄骨組立等作業主任者技能講習
- 足場の組立等作業主任者技能講習
- ガス溶接技能講習
- 足場の組立等特別教育
- クライミングクレーン組立・解体作業指揮者安全講習
- 工事用エレベーター組立・解体作業指揮者安全講習
以上のことから分かるように、とび・土工においても、土木技術者としての道は「資格取得」から始まるのです。
商業施設・工場に関する工事 まとめ
ここまで、商業施設・工場の建築工事の現場を切り口に、とび・土工の仕事内容について見てきました。
とび・土工の仕事は、他の工事業者に先駆けて現場に乗り込み、工事の進捗の効率化と安全のために働くことです。
仮囲いや足場、高所への重量物の楊重などを中心に、基礎工事における土工やコンクリート打設もこなします。ハードで、危険を伴う仕事をこなす職人として、現場仲間からは高い評価をもらう仕事でもあります。
そして、現場での頑張りや努力に見合う給与や待遇を得るには、技術力の証明である「資格取得」が近道であることは、他の土木工事と同じです。