少し湿った場所に生える木。
とても大きくなり、高いところでたくさんの赤い実をつける。
育てるにはある程度庭のスペースが必要になるが、秋から冬にかけての彩りと、葉っぱが落ちたあとの空がひび割れたような独特の枝振りは魅力的。
基本データ
- 分類
- 庭木-落葉
- 学名
- Idesia polycarpa Maxim.
- 科・属名
- ヤナギ科イイギリ属
- 別名
- ナンテンギリ
公園にも生える、意外と身近な木
イイギリとは
イイギリは、ヤナギ科イイギリ属に含まれる落葉樹です。
イイギリ科として分ける場合もありますが、ヤナギ科として扱われるのが一般的です。
本州から沖縄までの山に自生する木で、大きな池のほとりなど少し湿った場所に生えます。
湿った環境があれば、都市部の公園などでもみられることが多い樹木です。
10m以上の高い木になり、下の方に葉っぱがつかないので存在に気づかれないことが多い木ですが、雄株は春から初夏ごろに地面にポンポンのような丸い花が落ち、雌株は秋に真っ赤な実をたくさん垂れ下がらせと、存在を認識するととても美しい木であることに気づきます。
特に、紅葉の時期に黄色く染まった葉っぱと赤い実のコントラストは一見の価値ありです。
花言葉は「恵まれた人」「豊穣」など。
ひび割れたような枝振りが特徴的
イイギリは枝分かれの仕方がとても美しいです。
落葉樹なので冬になると葉っぱが全て落ちてしまいますが、そうなるとイイギリの美しい枝振りが現れます。
高くまっすぐ伸びた太い幹から放射状に枝が伸び、さらにカクカクした細かい枝に派生していきます。
他の木ではあまり見られない枝振りで、さながら空がひび割れているような形です。
文章では表現が難しいですが、「イイギリ 枝振り」などのワードで画像検索すると見ることができます。
また、雌株で赤い果実が残っていれば、たくさんの果実がぶら下がる様子もとても美しいです。
アリを味方につけて身を守る
イイギリはハート型の大きな葉をしていますが、葉から柄に繋がる根元の部分や柄の途中に小さな突起があります。
これは「花外蜜腺(かがいみつせん)」と言って、少しだけ甘い蜜を分泌する器官。
この蜜をなめにアリが集まり、木に集まる害虫を退治してくれるというものです。
大きな木になると葉っぱが高いところにあるので見ることができませんが、周りに生える若木だとアリが集まっているのを観察することができます。
花外蜜腺がある植物は色々ありますが、イイギリもその一つで、アリに蜜という報酬を与えることでボディーガードとして雇うような生存戦略をとっています。
広い庭にはぴったりの美しい木
庭のシンボルツリーとして
イイギリは成長が速く、とても大きくなるのでシンボルツリーとして育てることもできます。
枝を大きく広げてスペースをとるのでそれなりの広さの庭がないといけませんが、大木になったイイギリは非常にかっこいいです。
庭で育てているという人もあまりいないので、珍しい庭木として育てることもできます。
ただ、育てている人が少ないだけあって育て方のノウハウも少ないので、育成にチャレンジするくらいの気持ちで育てた方が良いかもしれません。
花や実を楽しむ
イイギリは雄株と雌株があり、どちらになるかは育ててみないとわかりませんが、雄株の場合は春に咲く香りの良い花が、雌株の場合は秋にブドウのようにたくさんなる実がそれぞれとても美しいです。
どちらに転んでも美しい姿が見られるので、雄株か雌株か楽しみにしながら育ててみるのも良いでしょう。
また、植替えが比較的成功しやすいので、庭の端っこで育ててみて目当ての方の株だったら真ん中に移植する、という方法も可能ではあります。
自然観察として
イイギリは、花外蜜腺(特徴の欄で解説)に集まるアリや、独特の枝振りなど、観察しがいのある木です。
背が高くなって下の方に葉が無くなると花外蜜腺の観察は難しいですが、小さいうちは自然観察に用いることができます。
たとえばお子様の自由研究で、花外蜜腺に来るアリが本当に害虫を退治するのか、アリを来なくさせたら害虫が増えるのかなどで実験してみても良いでしょう。
イイギリの育て方と特徴の詳細情報
- 草丈・樹高
- 10~15m
- 栽培可能地域
- 関東以南
- 花色
- 黄色
- 開花期
- 4~5月
- 結実期
- 10~11月
- 耐暑性 / 耐寒性
- 耐暑性は強く、耐寒性はやや弱い
イイギリの育て方と特徴の育て方・管理方法
- 植え付け・植え替え
- 植え替え、植え付け作業は3月ごろがおすすめです。
日当たりの良い肥沃な場所を好みます。
成長が早く、とても大きくなる木なので、それを見越して少しスペースや高さに余裕のある場所に植えるようにしましょう。 - 肥料
- 特に気にする必要はありません。
- 剪定
- 葉っぱを落としている冬の時期に行います。
大きくなると葉っぱが上の方にしかつかなくなって剪定が難しくなるので、必要な場合は植木屋さんなどに依頼して切ってもらいましょう。
葉っぱが落ちたあとに見られる枝ぶりが美しいので、近隣に枝を伸ばして迷惑になるなどでなければ、自然樹形のままでも大丈夫です。
苗木の時期から積極的に剪定すれば大きくなるのを遅らせることはできますが、かなりの量を剪定する必要があります。
数mまで大きくなってから小さくしようとすると不格好になるしすぐにまた大きくなってしまうので、小さく保ちたい場合は小さいうちに多めの剪定をしておきましょう。 - 病害虫
- 全体的に病害虫は少ないです。
病害としてはさび病や炭疽病、白紋羽病などが記録されています。
さび病は病原菌がムラサキケマンとイイギリを行ったり来たりして発病すると言われており、片方を除去すれば発生しなくなる可能性が高いです。
白紋羽病は多くの樹木に発生が記録されているもので、根元に白い菌糸膜ができ、木が急速に枯れる病気です。
治療法はあるものの、一般家庭の設備で行うのは少し難しいため、枯れた後の根の除去や土の入れ替えなどを行って周りの木への感染を防ぐようにしましょう。
害虫はポプラなどにつくセグロシャチホコや、サクラにつくモンクロシャチホコが発生する場合があります。
どちらも不快害虫程度のもので、放置しておいても木が枯れる心配はほとんどありません。
気になるなら幼虫のいる葉っぱを切除するか、薬剤で対処しましょう。 - 日当たり
- 植え付けや植え替えをしたあと、定着するまでは水やりをしますが、旺盛に成長し始めたらその後は気にする必要はありません。
- 水やり
- 植え付けや植え替えをしたあと、定着するまでは水やりをしますが、旺盛に成長し始めたらその後は気にする必要はありません。
出典(引用元)
「樹木医必携」
山と渓谷社
「山渓ハンディ図鑑4 樹に咲く花 離弁花2」
日本菌学会会報 60巻
「イイギリに寄生するMelampsora idesiaeの中間宿主」
愛知県稲沢市生まれ。稲沢市が「日本四大植木産地」であることもあり、幼少期から植木に囲まれて成長。
東京農業大学卒業後、名古屋市内の造園会社に就職。公園の整備工事から国交省事業の国道整備工事における土木及び街路樹等の植栽工事に現場代理人として携わる。