建設業には、元請を頂点とし、一次・二次下請などを下層とする「重層下請構造」が存在しています。

土木会社も建設業者であり、このピラミッド構造の中にあります。

元請と下請について簡単にまとめました。

元請: 工事全体の包括的な管理監督を行う
下請: 各工種に労務を配置し施工を直接行う

この重層下請構造は、行き過ぎると様々な問題を生じさせます。

建設業が抱える課題の一つとして、これまで多くの改善のための取り組みがなされてきましたが、構造自体は変わっていません。今後も、重層下請構造は存在したままであると考えられます。

土木会社で働こうとする人にとって、重層下請構造を理解しておくことは重要なことです。

高杉 有希子
監修者 エクステリアプランナー 高杉 有希子

静岡県御殿場市の土建屋に生まれ、大型重機が大好きな子供時代を送る。
建築に憧れ、三重短大で住環境を学ぶ。新卒でハウスメーカーFC工務店の「インテリアプランナー」に応募するも、社長の勘違いで募集したかったのはなんと「エクステリアプランナー」!!
ハウスメーカーで個人住宅のエクステリアを担当。その後、ゼネコン住宅事業部のインテリアプランナー、植木屋の外構プランナーを経て、現在は(株)ガーデンメーカーで営業設計を務める。

執筆者 お庭の窓口(転職情報)編集部

お庭の窓口転職情報の編集部です。 社内の造園・外構のプロたちから助言をいただきつつ、皆様に有益な情報を提供できるように頑張ります。

目次

土木会社を含む建設業界は重層下請構造

コンクリートカッター

土木会社を含む建設業界で、重層下請構造が構築され維持されてきたのには理由があります。デメリットだけでなく、大きなメリットがあるからです。

また、重層下請構造は複雑化しているにもかかわらず、建設業界における定着度は増してきているといえます。

重層下請構造の現状と今後について見ていきます。

重層下請構造によるメリットとデメリット

巨大な青い重機

重層下請構造にはメリットとデメリットがあります。それぞれ見ていきましょう。

重層下請構造によるメリット

  • 技能労働者を雇用するのではなく下請に請け負わせる
  • 工事内容の高度化等による専門化や分業化に下請で対応できる
  • 自社にない機器や経験のない工法でも下請で対応できる

中小の土木会社ほど工事には繁閑期があり、労務費の平準化は難しいのが現状です。下請会社に労務を外部化することで調整しようとする狙いです。

また、専門性の高い技術の取得や新しい機器の導入、経験のない工法の研究などには経費がかかります。これらを抑える目的でも、工事の一部を下請させることがあります。

重層下請構造によるデメリット

  • 施工に関する責任や役割の所在が不明確になりやすい
  • 施工体制が複雑化すると施工管理や安全管理に影響する
  • 現場施工を担う技能者の技量や就労状況の把握が困難になる
  • 不明確な雇用・請負関係により技能者の地位が不安定化する
  • 上位下請の企業数が増えることで下位下請の労務費にしわ寄せが生じるおそれがある

工事の発注者が一番注視するのは、重層下請構造により、施工の責任や役割が不明確になり品質や安全に影響を与えることです。

次に危惧するのは、下請で働く技能者の地位の不安定化です。不明確な雇用や請負関係は、就労環境を悪化させるおそれがあります。

以上のような懸念があるため、特に公共工事において、重層下請構造を改善しようとしているのです。

垂直的下請構造か分業体制・一人親方か

工事現場の枠づくり

重層下請構造の実態は、垂直的下請構造か、分業体制・一人親方かで分析すると分かりやすいです。

垂直的下請構造とは、元請→一次下請→二次下請→三次下請という垂直的な関係です。業者数の構成比でいうと、元請と一次がそれぞれ33%、二次は18%、三次以下は7%となっています。

一次は材工共の請負が多く、二次以下は手間のみの請負が多くなっていきます。上位業者に対する専属度も、下位になるほど高くなる傾向にあるようです。

分業体制・一人親方とは、再下請業者や一人親方を活用して、分業体制を組むために下請と契約するというものです。単純に、労務の不足を補うことを目的とした下請です。

特に注目されるのが一人親方です。下請構造の末端となりやすい一人親方ですが、事業者の社会保険料負担回避が要因となって増加傾向にあります。

一人親方のほうも自ら望んで、働き方の一形態として「一人親方」を選択していることが特徴的です。

重層下請構造は改善されるのか

夜の現場

国土交通省や日本建設業連合会などが中心となって、重層下請構造の改善のための取り組みがなされています。

主な施策は、以下のようなものです。

  • 一括下請負の禁止基準の明確化
  • 公共工事の施工時期などの平準化
  • 繁閑調整のための環境整備
  • 建設キャリアアップシステムの整備
  • 社会保険未加入対策の徹底

これらの施策は、技能者や現場で働く作業者の地位の安定化に寄与しているといえます。

しかし、重層下請構造自体には、大きな変化は起きていないというのが実状でしょう。少しずつ形を変えながらも、建設業の重層下請構造は残っていくと考えられます。

元請土木会社に求められる仕事内容と役割

道路工事の重機

発注者から、工事全体の総合的な管理監督を任される元請は、どのような仕事内容と役割を担うのでしょうか。

施工計画、工程・品質・安全、技術的指導、その他の役割という4つのポイントから見ていきます。

施工計画

成功へのステップ

元請は、受注した工事全体の施工計画書を作成し、発注者に提出しなければなりません。

施工計画書は、工期や安全性、品質の確保や経済性などについて、具体的な施工内容を含む重要な図書です。

また、下請が作成した施工手順書の確認や、設計変更に対応する施工計画書の修正も元請の仕事です。

工程・品質・安全

夜に光るカラーコーン

元請は、受注した工事全体の工程・品質・安全すべてに責任を負う立場です。以下にポイントをまとめました。

工程管理工事全体の進捗状況を確認し下請間の工程を調整する
品質管理下請からの施工報告を基に現場立会により確認する
安全管理安全協議組織を設置し運営するとともに作業現場を巡視する

また、工事全体において、労働安全衛生法に基づく措置についても配慮することが必要です。

技術的指導

青い作業服

元請は請け負った工事全体において、法令順守がなされているか、下請の作業は手順通り行われているかなどを確認します。請負金額によっては、主任技術者の配置も必要です。

各専門工事を請け負う下請に対して、総括的な立場での技術的指導も行わなければなりません。

下請は担当する範囲の施工しか考えない場合が多いので、他の作業との関係や工事全体の進捗状況に応じた技術指導が必要になるのです。

その他の役割

工事中の表記がついたコーン

元請の最も重要な仕事の一つが、発注者との協議や調整です。発注者の意図や要望に沿った施工を行うことは、元請としての能力の評価に直結します。

また、下請からの協議事項への適切な判断や対応も求められます。この時も、工事全体の目的や発注者の要望を忘れてはいけません。

近隣住民への説明も元請の仕事です。現場に関する説明は、住民の安心感を醸成し、現場の安全にも大きく貢献するものです。

工事全体のコスト管理は、元請の重要な仕事です。コスト管理に長けた現場責任者は、所属する会社から高く評価され、給与や待遇に反映されていきます。

下請土木会社に求められる仕事内容と役割 

3つ並ぶヘルメット

下請土木会社に求められる仕事内容と役割について見ていきます。

元請と比較しやすくするため、施工計画、工程・品質・安全、技術的指導、その他の役割という同じ視点から紹介しています。

施工計画

図面の上にヘルメット

下請は、請け負った範囲内の工事に関する作業手順書を作成します。作業手順書は、単に施工方法だけでなく、必要な道具や機器、作業に伴う危険度を明確にしていなければなりません。

元請は、下請の提出した作業手順書を積み上げて施工計画書を練り上げるという側面もあるので重要です。

また、下位の下請が作成した作業手順書の確認や、元請からの指示に応じた作業手順書の修正も必要になります。

工程・品質・安全

高速道路下の工事現場

下請は、請け負った範囲内の工事に関して、施工の進捗状況の確認や現場の立会い確認が必要です。

安全協議組織への参加や元請の現場巡回への協力も必要になります。

請け負った範囲内の工事での、労働安全衛生法に基づく措置についても配慮を忘れてはいけません。

技術的指導

コンクリートならし

下請は、請け負った範囲内の工事で作業員を適切に配置し、技術的指導を行います。

法令を遵守し、作業手順書通りの施工をしているか常に確認しなければならないのです。

作業者の健康管理や不安全行動に留意せず、事故や災害があった場合、自社だけでなく元請にも大きな影響があることを覚えておく必要があるでしょう。

その他の役割

重機に乗る作業員

下請は、元請との協議を密にすることが重要になります。元請の判断を踏まえた現場調整が必要だからです。

また、下位の下請からの協議事項に対する判断や対応もしなければなりませんが、そのときも元請の意向や判断は重要です。

下請にとっても、請け負った範囲内の工事での、コスト管理が重要なことはいうまでもありません。

まとめ

夕日に並ぶ重機郡

土木会社を含む建設業での「重層下請構造」は、今後も形を変えながら継続していくと考えられます。

安定性を重視して元請を目指すのか、専門性に特化した下請にまわるか、働き方の一つとしての「一人親方」を選ぶのかは人それぞれです。

いずれにしろ重要なのは、それぞれの仕事内容や役割を理解して、自分に合う場所はどこかを見極めることです。それが失敗しない転職のコツの一つであることは間違いありません。

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